大原美術館:『童女舞姿』岸田劉生

よく似た絵を見たことがあるという方も多いと思います。

大原美術館
岸田劉生(1891-1929)
『童女舞姿』1924

【鑑賞の小ネタ】
・童女は岸田劉生の娘「麗子」
・美術の教科書に載る「麗子像」
・数多くの「麗子像」あり
・記憶に残るこの感じは何か?

美術の教科書に載っているのは次の作品だと思います。

東京国立博物館
『麗子微笑(麗子像)』1921
重要文化財

なかなかのインパクトですよね。モデルは岸田劉生の娘、岸田麗子(1914-1962)です。大きなおかっぱ頭と小さな手のアンバランスな感じが何ともです。いずれにしても、記憶に残る絵ではないでしょうか?

本人の写真はこちら。

出典:Wikipedia  麗子九歳1923

絵画と比べてどうでしょう? なかなか可愛い(綺麗系?)少女だなと思いました。大原美術館の『童女舞姿』は10歳の麗子ということなので、写真と大体同じ頃ですね。

ところで、岸田劉生のこの「麗子像」、どこかで見たような雰囲気だと思って調べていると、岸田劉生は北方ルネサンスの影響を受けているという記述がありました。北方ルネサンスの画家と言えば、ヤン・ファン・エイクとかアルブレヒト・デューラーヒエロニムス・ボス、ピーテル・ブリューゲル等ですが、この「麗子像」については、ヤン・ファン・エイクの画風に似ているような気がします。ヤン・ファン・エイクの作品がこちら。

ナショナルギャラリー(ロンドン)
ヤン・ファン・エイク(1395年頃―1441)
『ターバンの男の肖像』1433

『ターバンの男の肖像』は画家本人の自画像ではないかと言われています。そしてヤン・ファン・エイクによるその配偶者の肖像画がこちら。

フローニンゲン美術館
ヤン・ファン・エイク
『マーガレット・ファン・エイクの肖像』1939

「麗子像」と雰囲気が似てますよね。頭部の大きさと手とのバランスも注目です。北方ルネサンスの画家は、細密に絵を描く特徴を持っていますが、岸田劉生の「麗子像」も、着物の柄等とても細かく表現されています。

岸田劉生の次のような「自画像」を見つけました。

泉屋博古館分館蔵
岸田劉生
『自画像』1921

帽子を被っていない自画像もありますが、この赤っぽい帽子を被った『自画像』は、前出のヤン・ファン・エイクの『ターバンの男の肖像』にとてもよく似ているように思います。

この何とも言えない岸田劉生の表現、「デロリ」と呼ばれます。岸田劉生が生み出した造語で、どんなものにもグロテスクなものが隠されていて、その真の姿を描き出すことが絵画の本質であり、それらを表現したものが「デロリ」ということのようです。なんだかちょっと難しいですが、不思議なそしてちょっと異様な雰囲気が「デロリ」ってことで良いのではないかと思います。

確かに、整った美しい絵よりも、ちょっと怪しい雰囲気の絵の方が印象に残ったりしますよね。好き嫌いは別として。

岸田劉生の「麗子像」シリーズは、まだまだたくさんありますので、ぜひ見てみて下さい。「デロリ」を感じることが出来ると思いますョ。