大原美術館
アンリ・マティス(1869—1954)
『女の戦』1935
大原美術館
アンリ・マティス(1869—1954)
『肱つく東洋の女』1944
大原美術館
アンリ・マティス(1869—1954)
『混血の女』1945
大原美術館
アンリ・マティス(1869—1954)
『マルティニックの女』1947
【鑑賞の小ネタ】
・フォーヴィスムの画家
・「色彩の魔術師」と呼ばれる
・晩年は「切り紙絵」
アンリ・マティスは「色彩の魔術師」と呼ばれます。この「色彩の魔術師」、マティスの他にもそう呼ばれる画家は何人かいて、誰が一番の魔術師?と思ったりするのですが、多分、マティスが一番最初に思い付く「色彩の魔術師」ではないかと筆者は思っています。
今回は、色彩のイメージの強いマティスの線画に注目したいと思います。早速マティスの言葉です👇
私の線画は私の感動の直接の、もっとも純粋な翻訳である
BRUTUS Casa HP
色彩だけでなく、線に対するマティスの熱い気持ちを感じますね。
マティスの有名な作品をいくつか👇
ポンピドゥー・センター
『赤い大きな室内』1948
エルミタージュ美術館
『赤のハーモニー(赤い部屋)』1908
エルミタージュ美術館
『ダンスⅡ』1910
鮮やかな色彩はともかく、輪郭線をしっかり描いていますよね。それまでの西洋画における輪郭線は、現実の物体に黒い線のような境界線はないので、描かないのが基本とされています。でもマティスは輪郭線を描いているところをみると、マティスにとって輪郭線、そして線は、とても重要であったことがよく分かります。
ササッと描いたようなシンプルなマティスの線画の魅力とは何なのか、色々調べてみました。すると、マティスの線描は、無駄をそぎ落としながらもモデルの表情や雰囲気を見事に捉え、即興的な筆致と流麗なラインが女性の優雅さと内省的な雰囲気を際立たせている、という記述を見つけました。前出の線画4作品を見てみてください。シンプルな一本線で描いているのに、女性たちの性格や心情がなんとなく分かるような気がしてきませんか? 例えば、線一本で描いた眉です。この眉の長さ、太さ、位置が少しでも違えば全く違った印象の女性たちになることでしょう。ごまかしなしの一本線ですね。
では、ここからは筆者の妄想タイムです。
このモデルの女性たちは誰なんでしょう?候補に挙がるのは、マティスの妻のアメリー・パレイル、長女のマルグリット・マティス、モデルのリディア・デレクトルスカヤ、看護師のモニーク・ブルジョワです。
まずは『女の戦』です。1932年、ロシア移民であるリディア・デレクトルスカヤは制作助手として雇われます。その後モデルも務めるようになり、アメリーはマティスのリディアへの関心に気づきます。アメリーとリディアの関係は急速に悪化しました。ちなみにマティスとアメリーは1898年に結婚していて、1939年に別居しています。そして『女の戦』の制作年は1935年です。
左:マティス 右:アメリー
リディア・デレクトルスカヤ
次に『肱をつく東洋の女』です。制昨年は1944年ですね。リディア自身は長いブロンド髪に青い目、白い肌を持つ北国(ロシア)のルックスだったようですョ👇
リディア・デレクトルスカヤ
前出の顔アップのリディアの写真を見ると、髪の色は黒っぽく、東洋系に見えませんか? どうやらマティスは、リディアに様々な東洋の衣装をまとわせたりして、インスピレーションを得ていたそうです。多分モデルはリディアなんでしょうね。アメリーではないと思います。1939年に別居していますから。
『マルティニックの女』はどうでしょう? マルティニック(マルティニーク)とは、カリブ海に浮かぶフランスの海外県(海外領土)の1つです。住民の多くはアフリカ系黒人とヨーロッパ系などの混血(クレオール、ムラート)で、人口の大部分を占めているようです。この作品のモデルもリディアかなと思いましたが、目が違うような気がします。モニークはどうでしょう?マティスとの出会いは1941年です。癌の手術を終えて療養中だったマティスの看護師として雇われたのが始まりです。彼女は後に、ドミニコ会の修道女(シスター・ジャック=マリー)となります。
左:マティス 右:モニーク
『モニーク・ブルジョアの肖像』1942
『マルティニックの女』と『モニーク・ブルジョアの肖像』、スッとした目と髪のウエーブが似てるかなと思いましたが、モニークは1943年に看護師を辞め、修道院へ入っているのが分かりました!『マルティニックの女』の制作年は1947年なので、モデルはモニークではなさそうですね。修道女となってからもマティスとの深い友情と絆は続いていたようなので、想像で描けなくもないとは思いますが…。(※モニークとの出会いはマティス芸術の集大成、「ロザリオ礼拝堂」誕生へと繋がって行きます。)
シンプルな線の中に深い愛情を込めたマティスの線画、少しでも感じ取れるといいなと思っています(^-^)