大原美術館:『パリ郊外の眺め バニュー村』アンリ・ルソー

pai355

ほのぼのとした気分になる絵だと思います。謎は多いですが…

大原美術館
アンリ・ルソー(1844-1910)
「パリ郊外の眺め バニュー村」1909

【鑑賞の小ネタ】
・ルソーはパリの税関職員
・独学の日曜画家
・地面に影を描かない
・モチーフの大きさが不自然
・作風が独特のため、なかなか評価され
 なかったが、ピカソが認めた!
・亡くなる前年の作品

ぱっと見はかわいい絵だなと思いました。この牛、岡山県北の蒜山高原で飼育されているジャージー牛によく似ています。

出展:ひるぜんジャージーランドHPより

ルソーは他にも牛の絵を描いています。

フィラデルフィア美術館
アンリ・ルソー
「牛のいる風景」1886
ブリヂストン美術館
アンリ・ルソー
「牧場」1910

色が少しづつ違っていますが、どの牛も茶系でほのぼのしています。ジャージー牛に一番似ているのは大原美術館の牛だと思いますけど。

  

そして、画中右側の薄い茶色の2つの塊、これはきっと積み藁(ワラ)なんだと思います。かなり大きいです。牛よりも大きい。この積み藁、他の絵でも見つけました。

ピエール・ゲネガン、マーガレット・ゲネガン両氏蔵
アンリ・ルソー
『田園風景』1875/80

左端に描かれています。これもなかなかの大きさですね。手前に見える建物よりも大きい。ルソーにとってとても印象的なモチーフだったのかもしれません。

そしてそして、細い棒を持った小さな人。つばが大きめの帽子に黒い服という出で立ちです。普通に牛飼いのおじさんかなと思ってたのですが、他の絵で似たよう人物を見つけました。これです。

アンリ・ルソー
『釣り人』1909-1910

ちょっと棒が長めなのですが、とても似ていると思います。でも、この人物は、「釣り人」なんです。牛飼いと思っていたおじさんは、もしかして、釣り人だった?「パリ郊外の眺め バニュー村」をよく観ると、後方に川か池か運河か、とにかく水の風景が描かれています。だったら、釣り人もありですよね。しかも制作年に注目してください。1909-1910です。ほぼ同時期です。ちなみに、この人物は、他の釣りをテーマとしたいくつかの絵の中にも登場しています。そうなってくると、誰なのかが気になってきます。残念ながら筆者の力では分かりませんでした。

  

最後に、最大の謎、左後方のオブジェ?です。これは本当に謎で、結局分からないのですが、いくつか筆者なりの候補はあります。
ルソーはパリの税関職員でしたので、パリの風景には馴染みがあったはず、ということでエッフェル塔(1889年完成)です。遠目から見るとなんとなく例のオブジェに見えなくもないかと。ルソーはモチーフの実際の大きさにはとらわれないので、エッフェル塔もありかなと思ったのですが、ちょっとあまりにもですよね。(※ルソーの絵の中には、確実にエッフェル塔として描いたものもあります。残念ながら例のオブジェとは全く違った形状をしています。)
次の候補は、グラン・パレの屋根上部。グラン・パレは1900年のパリ万博のために建てられた大規模展覧会場です。ルソーもパリ万博へ行って感動したはずです。その印象を絵に描き込んだかも。
3番目の候補は、バスティーユ広場のモニュメントです。かつてバスティーユ牢獄があった場所です。フランス7月革命を記念するオブジェとして1830年に建てられました。フランス共和主義の重要なシンボルです。

ウジェーヌ・ガリアン=ラルー(1854-1941)
「バスティーユ広場」

ルソーは1909年、「パリ郊外の眺め バニュー村」の制作年と同じ年に、手形詐欺事件に関わったされ、拘留されています。利用されただけという説もあり、真相は明らかになっていませんが、拘留はされたのです。バスティーユ広場の元はバスティーユ牢獄、イメージが繋がりそうですが… どうでしょうか?

とにかく謎の多い画風なので、イメージが自由に膨らみますよ。