大原美術館:『吸血鬼Ⅱ』ムンク

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ムンクの有名な作品『叫び』や『マドンナ』と同じく、『吸血鬼』にも色んなバージョンがあります。

大原美術館
エドヴァルト・ムンク(1863-1944)
『吸血鬼Ⅱ』1895-1902
石版・木版

【鑑賞の小ネタ】
・ムンク的には『愛と苦悩(痛み)』だった
・油彩画の構図を反転させた作品
・この男女は誰なのか?

男性がぐったりして、女性が抱えている感じですね。ムンク自身は、「首にキスをしている女性」以外には何の意図もなく、吸血鬼の絵を描いたわけではないと主張しているそうです。

オスロ ムンク美術館
エドヴァルト・ムンク
『吸血鬼(愛と痛み)』1895

当初、ムンクは作品名を「愛と苦悩」としていたようです。ではなぜ『吸血鬼』となったのか?どうやら、ムンクの友人の詩人 スタニスワフ・プシビシェフスキ が、(まるで吸血鬼のようだということで)名付けたといわれています。この友人に注目です。過去記事で紹介しましたムンクの作品『マドンナ』のモデルとされる憧れのダグニー・ユールと結婚したあの友人なんです!ムンクにとっては友人であり恋敵でありなんとも複雑な関係性です。その友人に、吸血鬼のようだと言われ、ムンクはどんな気持ちになったでしょうね。

あまり好意的には受け止められなかったのではないかと思います。 友人プシビシェフスキ は、特に深い意味はなく、見たままの印象を言っただけのような気もしますが。どうなのでしょうね。複雑な人間模様が垣間見られます。

『吸血鬼Ⅱ』では分かりにくいのですが、よく見ると、男性が女性の体にしっかり手をまわしています。そして女性は包み込むように抱きかかえています。確かに、そこに愛があるように見えますよね。吸血鬼を描いたわけではないというムンクの主張が理解できます。 もしかしたら、ムンク自身とダグニー・ユールを描いたのかもしれませんね。

後になって、次のような絵を描いています。

オスロ ムンク美術館
エドヴァルト・ムンク
『森の吸血鬼』1916-1918

バックに色が入りましたね。全体が明るくなった印象です。前景の男女は、これまでの「吸血鬼」とほぼ同じ構図です。1985年の『吸血鬼』から、20年以上経ってのこの作品なのですが、作品名『森の吸血鬼』はムンクが名付けたようですョ。今度は自ら「吸血鬼」としているところをみると、この頃にはもう、「吸血鬼」というネーミングを受け入れていたのかもしれませんね。むしろ、色んな意味で気に入っていたかも。「吸血鬼」はとてもインパクトの強い作品名ですからね。

作品名にも色んな歴史、人間模様があるものですね。