大原美術館:『道化師(横顔)』ルオー

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あまり道化師に見えないような…。

大原美術館
ジョルジュ・ルオー(1871-1958)
『道化師(横顔)』1926-1929

【鑑賞の小ネタ】
・道化師をモチーフとした作品多数あり
・顔を斜めに横切る線は何か?
・ステンドグラス職人の経験あり
・初期作品の画風の違いに注目

目がギロッと印象的です。道化師というとピエロですが、あまりピエロっぽくないように思うのですが、どうでしょう?顔を斜めに横切る線はしわでしょうか。傷かもしれませんね。または、ショー用のメイクかも。

同じ頃に制作された『赤鼻の道化師』にも、顔に黒く太い線が描かれています。

アーティゾン(ブリヂストン)美術館
『赤鼻の道化師』1925-1928

同じ道化師を描いたのでしようか?視線もよく似ていますね。 何れにしても、顔の黒い線は何か意味がありそうです。

黒い線と言えば、モチーフのパーツが、黒くて太い輪郭線で描かれているのが分かります。西洋絵画ではあまり輪郭線を描かないので、ここまで太い輪郭線はかなり独特です。 ルオーは10代の頃、ステンドグラス職人や修復作家として修業しています。ステンドグラスにも黒い枠(輪郭)がありますよね。ルオーの作品にはステンドグラスの影響が見られると言われますが、なるほどなと思いました。

ルオーは道化師をテーマとして多くの作品を残しています。

出光美術館
『小さな家族』1932

道化師の家族だと思います。 赤い服がお父さん、青い服がお母さん、黄色い服が子どもといったところでしょうか。静かな雰囲気ですね。
同じ1932年に、次の作品もあります。

個人蔵
『傷ついた道化師』1932

『小さな家族』と同じ道化師の家族だと思います。青い服のお母さんが真ん中でうなだれています。ケガをしたのでしょうか?子どもが心配そうにお母さんを見ています。

ルオーの描く道化師は、道化師(ピエロ)なのにあまり楽しそうに見えません。むしろ、生きることの厳しさを感じるような仕上がりになっていると思います。

ルオーは、場末のサーカスや旅回りのサーカスに特に心を寄せたといいます。そして、「われわれは皆、道化師なのです」と語ったそうです。深いですね。考えさせられます。

ところで、ルオーが本格的に画家を志したのは1890年頃からで、1891年にエコール・デ・ボザール( パリ国立高等美術学校 )に入学しています。ここで、マティスモロー(教師で画家)に出会っています。

次の作品はルオーの初期の作品です。

パリ国立高等美術学校
トュリウスの家におけるコリオラヌス』1894

エコール・デ・ボザール 所蔵の作品ですが、全く画風が違いますね。太い輪郭線はなく、アカデミックなザ・西洋画という感じです。ピカソが分かりやすいかもしれませんが、芸術家の作風が時代とともに変化することはよくあることです。ピカソも最初からあの感じの絵を描いていたわけではありません。ルオーも、画家の内面の変化と呼応して、作風がどんどん変化して行くパターンの作家の1人だと思います。

パッと見、初期の作品の方が、普通に上手な絵という感じだと思うのですが、どうでしょう? ところが『道化師』のような作品と比べた時、訴えるものがあるかないかと言われれば、ちょっと疑問です。仮に、『道化師』を初期の頃のような作風で描いたと想像してみてください。普通に上手な肖像画になるとは思いますが、やはり、今の画風の方が訴えるものがあるような気がします。

ちなみに、とてもインパクトの強い作品『道化師』は、過去記事(大原美術館:ふさがれた窓)でも紹介しましたが、盗難の経験があります。『道化師』の鋭い目は、色んなものを見ているのでしょうね。