大原美術館:『ミランズ・パーク』シュヴィッタース

色んなものが貼り付けられていますね。

大原美術館
クルト・シュヴィッタ―ス(1887-1948)
『ミランズ・パーク』1947

【鑑賞の小ネタ】
・ドイツの芸術家
・廃品を利用したコラージュ作品多数
メルツ絵画で有名
・亡くなる前年の作品
・ミランズ パークとは?

シュヴィッタ―スはドイツの芸術家です。第一次世界大戦(1914年~1918年)、第二次世界大戦(1939年~1945年)の影響をもろに受けた世代と言えます。シュヴィッタ―スの作品は「退廃芸術」ということで、押収されたものも多いようです。次第に創作活動が難しくなる中、ドイツからノルウェー、そして1940年にイギリスへ亡命しています。イギリスにおいては敵国民だったシュヴィッタ―スは、収容所を転々とし、釈放されたのは1941年の11月だったそうです。大戦中はロンドンにとどまったようですが、1945年に湖水地方(イングランド北西部のカンブリア)へ向かいました。

ところで『ミランズ・パーク』をじっくり見ると、中央付近に細かい文字があるのが分かります。180度回転させてアップにしてみます。

『ミランズ・パーク』の一部

1行目に Kurt Sch が見えますね。これは Kurt Schwitters (クルト・シュヴィッタ―ス)のことでいいと思います。2行目には、Millans Par が見えます。そして3行目に、mbleside /  We が見えます。 イギリスの地図を見てみると、イギリスのAmblesideにMillans Parkという所がありました。そして、 / の後にチラッと見える We、これはWestmorland(ウェストモーランド)ではないかと思います。 イングランド北西部にかつて存在した郡です。1889年から1974年まで郡議会が機能していたようです。1974年に周辺地域と合併してカンブリアが誕生しています。
以上のことから、この文字列はきっと、シュヴィッタ―スの住所ではないかと思います。作品名の『ミランズ・パーク』は、地名のMillans Park(ミランズ・パーク)から採ったものと考えられます。

作品の中にある文字を採って作品名にしている作品は、他にも多く存在していて、次の作品もその中の1つです。

『Mai 191』1919

次の作品は、『ミランズ・パーク』と制作年が同じで、しかも作品の中の文字を採って作品名にしています。

『CIGAR(葉巻)』1947

CIGARの文字が見つかったでしょうか?

シュヴィッタ―スのこれら廃品を利用した作品は、「メルツ絵画」と呼ばれています。メルツは「MERZ」なんですが、作品制作中に紙の破片に書かれていたMERZ(「COMMERZ  Und Privatbank」という銀行名の「 MERZ 」の部分)が目に留まり、そこから採って「メルツ」になったそうです。 廃材を利用した立体的な作品にも取り組んでいて、それは「メルツバウ(メルツ建築)」と呼ばれています。

シュヴィッタ―スは、なぜ、廃物を利用した作品を作り続けたのでしょうか? 現在では、廃物を利用した作品は多く見られるようになりましたが、当時としてはとても珍しかったのではないか思います。
シュヴィッタ―スは後に、次のように語っています。

戦争で物事はひどい混乱に陥った。アカデミーで習ったことは役に立たなくなったように思え、役に立つ新たな考えはまだ準備されていなかった…すべては崩壊し、その破片の中から新しいものが生まれてこなければならなかった。この破片が「メルツ」だ。破片をもとあった姿でなく、そうであるべきだった姿へと変えることは、私の中の革命のようであった。

Wikipedia: The Collages of Kurt Schwitters, Dietrich, Cambridge University Press 1993, p6-7

ただ拾って来て貼っているわけではないということです。破片には深い意味があったんですね。そう思いながら改めて作品を見てみると、 なかなか見応えがあります。 どの破片をどのように貼るか等、考え抜かれて出来上がった作品たちなので。すぐには理解できない作品ほど、鑑賞はおもしろいのかもしれませんね。