大原美術館:『静物Ⅱ』坂田一男

切り紙を使ったコラージュ(写真や絵や文字などを新聞や雑誌などから切り抜き、台紙に貼って1つの作品にする)かなと思いました。

大原美術館
『静物Ⅱ』1934
坂田一男(1889-1956)

【鑑賞の小ネタ】
・キュビスムを学ぶ
・岡山県玉島にアトリエを構える
・2度の水害に襲われる

筆者は坂田一男の作品の色合いが好きです。過去記事(大原美術館:『習作』坂田一男)で紹介した作品の色もアースカラーでいいなと思っています。現在、大原美術館本館で『静物Ⅱ』が展示中です。展示はされていませんが、よく似た『静物Ⅰ』という作品もあります👇

大原美術館
『静物Ⅰ』1934
坂田一男(1889-1956)

坂田一男は1921年に渡仏し、1933年に帰国しています。そして、1934年に玉島市乙島新開地(現・倉敷市)にアトリエを建てました。玉島在住の画家による洋画家研究会を結成する等、精力的に活動していましたが、2度(1944年、1954年)水害に遭ってしまい、多数の作品を失っています。『静物Ⅱ』『静物Ⅰ』は1934年に描かれています。1944年の水害の時に被害に遭ったと思われます。

『静物Ⅱ』の説明書きに、「キャンパスに油彩」と書かれたものを見つけました。切り紙によるコラージュっぽく見えた作品でしたが、間違いなく油彩画だったようです。水害で水に浸かり、絵具が剥がれ落ちて、元の状態から大きくかけ離れた状態になってしまった作品たち。相当ショックを受けたことでしょう。ところが坂田は諦めることなく、剥落してしまった絵具を集めて、効果を考えながら部分的に貼り付けていったそうです。

水害に遭い、作品が水に浸かってしまい、それで終わりというのではなく、手を加えて作品として復活させていることが本当に凄いなと思いました。そして筆者は、水害に遭う前の元の状態を知りませんが、水害後の今の状態の方が良い感じなのではないかと思ってしまいます。

水害に遭ったと思われる似たようなコラージュっぽい作品を見つけました👇

個人蔵
『コンポジション』制作年不詳
キャンパスに油彩

茶色の部分は、多分劣化したキャンバスの色なんだと思います。そうだとすると、黒色の線は色を塗る前のデッサンでしょうか。『コンポジション』は、『静物Ⅱ』『静物Ⅰ』よりも相当ダメージを受けていますよね。絵具はほとんど剥落してしまっています。それでもちゃんと作品として現存していることが深いなぁと思いました。

   

水害ばかりに焦点を当ててしまいました。
『静物Ⅱ』は何が描かれているのでしょうかねぇ。筆者が思ったことを書いてみます。中心の黒いシルエットは壺でしょうか。机の上に置かれていて、後方にポットのようなものも見えます。向かって右の白い曲線部分が便器の端に見えるのですが、多分、違いますよね。でも、もしかしたら、そうかもしれません。というのも、マルセル・デュシャン(1887-1968)というアーティストが、男性用小便器に「R.Mutt」とサインをしたのみのものを『泉』と名付け、芸術作品として発表しています。美術界に衝撃を与えた大問題作です。観点が少し違ってはいますが、便器を題材にするところは同じというわけです。『泉』の制作年は1917年なので、坂田もきっと知っていたのではないでしょうか。ちなみにデュシャンは「現代アートの父」と呼ばれたりします。もう1つ気になるのは、正方形の中に黒い点が1つ、サイコロの1の目のような形の図像が2つ並んでいるのが分かるでしょうか?『静物Ⅰ』では、斜め右上にやや薄く1つあります。これはいったい何なのか。小さいですがとても存在感があります。

絵具が剥がれ再構成された坂田のこれらの作品は、欠落した部分が多いのにも関わらず、なんだかとてもバランスが良いように思えます。絵具が剥がれたこの部分に、この絵具を置いたのはなぜか等を考えながら鑑賞するとおもしろいかもしれませんね。