大原美術館:『漁夫』シャヴァンヌ

pai284

大原美術館の他の2作品と比べて、かなり描き方が違うなと思いました。

大原美術館
ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ(1824-1898)
『漁夫』1856

【鑑賞の小ネタ】
・シャヴァンヌ初期の作品
・かなり写実的
・作品名に「漁夫」が入る他作品あり
・この作品の少し前から壁画装飾を始める

大原美術館にはこの作品の他に、『幻想』と『愛国(習作)』があります。『幻想』は壁画装飾のフレスコ画っぽい仕上がりになっていて、『愛国(習作)』は光を感じる印象派っぽいタッチで塗られています。そしてこの『漁夫』は、とても写実的でアカデミックな感じがします。3点同時に展示されているのを見たことがありますが、比べて見てみるとほんとに違いますョ。筆者は最初、3点それぞれ別の作家が描いたと思っていましたから。

様々な画風(塗り方)を見せてくれるシャヴァンヌですが、どの派とも一線を画していて、象徴主義の先駆者の1人とされています。

『漁夫』1856はシャヴァンヌの初期の作品と言えます。もっと初期の1848年の作品がこちら。

クライスラー美術館
『アレゴリー』1848

シャヴァンヌは1850年にサロン・ド・パリ(官展)にデビューしていますが、8年連続で落選しています。『漁夫』1856は落選中の作品というわけです。ただこの期間、1854ー55年に私邸の食堂のために、初めての壁画装飾も制作しています。1859年にその壁画の1つを再制作した『狩猟からの帰り』が入選してからは、壁画装飾の腕が注目され始めることとなります。

ところで、シャヴァンヌは「漁夫」をテーマとした作品をいくつか残しています。

国立西洋美術館
『貧しき漁夫』1877-1892
プ-シンキ美術館
『貧しき漁夫』1879
オルセー美術館
『貧しき漁夫』1881

作品名は3点とも『貧しき漁夫』となっています。男性は、前で手を組んで祈っているように見えます。細身で疲れているような印象です。大原美術館の『漁夫』は、ドカッと横になってはいますが、筋肉質で健康的な細マッチョに描かれていると思います。「漁夫」がテーマの作品なのですが、「貧しき」がつくと随分違うものですね。

シャヴァンヌは神話や聖書の世界を題材とすることが多く、「漁夫」も何か関係しているのでしょうか?聖書に詳しい方はピンとくると思いますが、キリスト教12使徒の中に、前職が漁師という使徒がかなりいるんです。ペテロ、アンデレ(ペテロの弟)、大ヤコブ、ヨハネ(大ヤコブの弟)が漁師で、フィリポ、トマスも漁師ではないかと言われています。何か関係ありそうですね。

『貧しき漁夫』の女性と子どもはどうでしょう?女性は漁夫の妻で子どもは漁夫の子どもという解釈と、2人とも漁夫の子どもという解釈があるようです。シャヴァンヌ自身は、「妻を亡くした貧しい漁夫を描いた」と説明しているそうです。妻が亡くなっていることは間違いなさそうですが、女性は妻の幻影でも良いわけで、どちらの解釈もありのように思います。ちなみに、オルセー美術館の公式ホームページの解説では、妻を亡くした漁夫と2人の子どもたちとされています。

大原美術館の『漁夫』は、まだ独身って感じがします。妻と子どもがいるようには見えないのですが、いかがでしょう? 解釈は自由だと思いますョ。