大原美術館:『赤い衣装をつけた三人の踊り子』ドガ

pai162

今にも動き出しそうですね。

大原美術館
エドガー・ドガ(1834-1917)
『赤い衣装をつけた三人の踊り子』1896

【鑑賞の小ネタ】
・ドガはパステル画も多く手掛ける
・踊り子をテーマとした作品多数
・晩年視力がかなり衰える
・室内制作の印象派の画家

ドガは「踊り子」をテーマとした作品を数多く残しています。オルセー美術館の『エトワール』は有名ですね。油絵のように見えますがパステル画です。

オルセー美術館
『エトワール』1878年頃

大原美術館の『赤い衣装をつけた三人の踊り子』も、『エトワール』よりあらいタッチではありますがパステル画です。

1870年に普仏戦争が起きます。ドガも軍隊に入隊しています。射撃訓練の際に視力に欠陥があることが判明したそうです。その後、徐々に視力が失われていくことになるのですが、60歳の頃からは、ほとんど見えてなかったのではないかと言われています。大原美術館の作品は1896年に制作されているので、ドガは62歳ですね。視力に問題がある中描かれた作品ということになりますね。

この頃の「踊り子」をテーマとした作品をいくつか紹介します。

メトロポリタン美術館
『薔薇色と緑の衣装の踊り子たち』1890
オルセー美術館
『青い踊り子たち』1893年頃
ポーラ美術館
『二人の踊り子』1900年頃

印象派の画家たちは、印象派展を1874年から8回開催しています。そしてドガは7回出品しています。印象派といえば、戸外に出て光の中で制作するというイメージがあると思いますが、ドガは伝統通り(チューブ入り絵の具の発明前は、絵画は室内で描くもの)室内制作にこだわりました。戸外で観察してきた情景を、卓越したデッサン力で組み合わせ作品にしたのです。またドガは、オペラ座の定期会員だったようで、楽屋や稽古場に自由に立ち入る特権がありました。「踊り子」をしっかり観察(目に焼き付ける)することが出来たでしょうね。

ドガは、油彩画やパステル画の他に、蜜蝋や粘土によって小さな塑像(そぞう: 粘土や石膏を材料として作った像。青銅像などの原型としても作られる)を数多く制作しています。これらの塑像は、完成作品として発表するというものではなく、絵画制作のためのデッサン人形(モデル人形)であったと考えられています。ドガの死後、アトリエから塑像が150点ほど発見されています。その多くが劣化していましたが、保存状態の良いもの(完全なものと修復されたもの)は鋳造師によって鋳造されました。
大原美術館の「踊り子」に似たポーズの鋳造作品をいくつか紹介します。

塑像(立体)だと、色んな角度がら見ることが出来ますね。デッサンする時、役に立ったことでしょう。 
完全に視力を失ってからも、ドガは触覚を頼りに造り続けたそうです。最晩年は、モデル人形としてではなく、作品として制作していたのではないかと筆者は思っています。発表するしないは関係なく、最期までアーティストとして。