大原美術館:『マルリーの通り』シスレー

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季節や時間、いつ頃なんでしょうね。

大原美術館
アルフレッド・シスレー(1839-1899)
『マルリーの通り』1879

【鑑賞の小ネタ】
・シスレーは典型的な印象派の画家
・人が小さく遠くまで描かれている
・画中の白っぽい三角形は何か?
・建物や人の影が長い
・他にも同じ構図の作品あり

シスレーは控えめな性格だったようです。積極的に作品を売り込むようなことはなかったそうです。父親からの経済的支援を受けることができていた間(1870年普仏戦争が始まり、父親の事業が破産)は、比較的生活に余裕があったようなのですが、生涯、貧困の中で過ごしました。

シスレーの生前、作品の価値はなかなか上がりませんでした。生計を立てる手段が作品の販売だったので、画風等、色々と模索しそうなのですが、シスレーはぶれずに印象派を貫きました。

こんな有名なエピソードがあります。1900年頃、アンリ・マティスがカミーユ・ピサロに会った際に、マティスが「典型的な印象派の画家は誰か?」と尋ねると、ピサロは「シスレーだ」と答えたというのです。印象派のまとめ役のピサロに、シスレーは、印象派の画家として高く評価されていたことが分かるエピソードですね。

さて、「マルリーの通り」をテーマとした作品が他にもありました。

『マルリーの通りの光景』1876
『Une rueàMarly(マルリーの通り)』1876

ほとんど同じ場所から描いたのではないでしょうか。中央に描かれている屋根の作りが特徴的な建物が印象的ですね。
ところで、大原美術館の『マルリーの通り』でははっきり描かれています が、その特徴的な建物の向かって右手前に描かれている三角の形をした白っぽいもの、何だと思いますか? 建物の一部のようであり、斜め右奥に続く道のようでもあります。 『マルリーの通りの光景』1876を見てみると、これは建物の一部のように見えます。 『Une rueàMarly(マルリーの通り)』1876 では、馬車に隠れて一部しか見えませんが、大原美術館の『マルリーの通り』1879の三角形とほぼ同じ位置と大きさで描かれているように思います。この2作品は、建物なのか道なのか、見解が分かれるところではないでしょうか。

このトリックアート的な表現、ちょっと意外でした。
シスレーは、以下のように評されています。

美術史家のロバート・ローゼンブラムは、シスレーを「最も汎用的な特徴を持ち、非個性的で教科書として示すのに完璧な印象派絵画」と評している。

Artpedia   アルフレッド・シスレー / Alfred Sisley
        最も教科書的で典型的な印象派画家

筆者がイメージしていたシスレーも、非個性的で、あまり奇をてらった表現をしないタイプの画家と思っていたからです。

ところで、少し気になることがあります。制昨年が大原美術館の『マルリーの通り』だけ1879年になっていることです。シスレーが マルリ=ル=ロワ (マルリーの通り近く)に住んでいたのは、1875年から1877年で、その年(1877年)にはセーヴルに引っ越しています。もしかしたら、大原美術館の『マルリーの通り』は過去に描いたものを参考にしながら、ちょっと脚色を加えて描いたのかもしれません。もしそれがシスレーの試みだったのなら、大成功ではないでしょうか。三角形が気になって、色々想像してしまいます。典型的な印象派の風景画の中の謎の三角形、いいですよねェ。

構図は違いますが、マルリーの通りを描いた作品が他にもありました。

『street in marly』1876

1876年ですね。まだ近くに住んでいた頃です。トリックアート的な表現は見られないように思うのですが…。どうでしょう? あの上部が特徴的な建物は描かれていますね。

「これは何を描いているのかな?」という視点で鑑賞すると、やっぱりおもしろいですね。

追伸
「シスレーは道路の表面を少し高く描くことにより消失点をより興味深くしている」(引用:MUSEYオンライン・ミュージアム)とありました!あの三角形と何か関連があるのでしょうか…?