大原美術館:『都会』松本竣介

夢でみた街を描いたような作品だなと思いました。

大原美術館
松本竣介(1912-1948)
『都会』1940

【鑑賞の小ネタ】
・病気により中学1年で聴覚を失う
・都会や街をテーマとした作品多数
・作品の中心に「モガ」
・月刊誌「雑記帳」を発刊
・早逝の画家

中心に女性が描かれています。洋服姿でおかっぱボブ、モガ(モダンガール)ですね。モガは、松本竣介の「都会」や「街」をテーマとした作品の中でよく描かれています。

大川美術館
『街』1938
下関市立美術館
『街にて』1940

大原美術館の『都会』で、中心よりやや左に描かれているモガよりも、かなり大きなモガがいるのが分かるでしょか? 脚と胴、左腕らしきものが描かれていると思うのですがどうでしょう? 顔はちょっとよく判りません。そして、中心のモガの後方には、横向きや背を向けた人々が結構描かれているんです。中心のモガと建物が印象的なので、ぱっと見では気が付かないのではないでようか。

また、自転車も小さく描かれています。 次の作品は、作品名の中にも「自転車」の文字があるのでわかりやすいです👇

岩手県立美術館
『街(自転車)』1940

大原美術館の『都会』の中に自転車、ぜひ探してみてください。自転車が発見できたら、絵の見え方がグッと変わってくると思いますョ。なんだかちょっとかわいくて、親しみやすい雰囲気になるような気がします。

ところで、筆者の『都会』の第一印象は、とても静かで寂しいというものでした。青い都会の中にモガが独り、みたいな感じです。よくよく見たら、結構人の姿も見えますし、自転車も描かれていて生活を感じることができ、そこまで寂しい雰囲気ではないのかもしれませんが。

この静けさは、中学1年の頃に 脳脊髄膜炎により聴覚を失ったことが影響しているのかもしれません。筆者が『都会』を初めて鑑賞した時、松本竣介が聴覚を失っているとは知らなかったので、後に余計感じ入ったものです。そうしてみると、その作品(作者)についてあまり予備知識なく鑑賞するのもありかもしれませんね。

     

松本竣介が影響を受けた画家の1人に、野田英夫がいます。

東京国立近代美術館
野田英夫(1908-1939)
『都会』1934

この俯瞰(ふかん:高い所から見おろすこと)した「都会」の構図、確かによく似ていますよね。そして大小様々な人の姿も見えます。

松本竣介や野田英夫の俯瞰で描かれた「都会」作品、実際にはこのような「都会」は存在しませんよね。印象的な建物や建造物をいい感じに組み合わせています。それこそ芸術家のセンスで。これは、モンタージュの技法を用いているそうです。(※モンタージュとは、映画用語で視点の異なる複数のカットを組み合わせて用いる技法のことです。)

建物や建造物自体は現実のものが多いと思いますが、モンタージュすることにより、幻想的な雰囲気になることがとても興味深いです。松本竣介の「都会」シリーズに至っては、全体的に深い青色なのでより幻想的になっていると思います。

最後に、大原美術館の『都会』の中に描かれているアーチ橋がどこの橋なのかとても気になりました。モンタージュということで、このアーチ橋と後方の建物が合致する風景はないであろうことは理解していますが、モデルとなったアーチ橋がもしかしたらあるかもしれないと。3連のアーチ橋なのでかなり特徴的ですよね。松本竣介は東京の街を多く描いた画家なので、東京中心辺りの3連のアーチ橋をちょっと探してみました。

見つけました。東京都中央区の「湊橋(みなとばし)」です👇

出典:4travel.jp 「湊橋」

構造形式は「3径間鉄筋コンクリート製アーチ橋」ということです。竣工は1928年でした。新しそうに見えてなかなか歴史ある橋なんですね。当時のままかどうかは不明ですが、松本竣介が活動していた頃には存在していたということになります。

どうなんでしょうねェ。筆者は場所探しが好きみたいです。