大原美術館:『風景』ドーシェ

筆者はまだ実物を見たことがありません。

大原美術館
アンドレ・ドーシェ(1870-1948)
『風景』

【鑑賞の小ネタ】
・フランスの画家
・画壇デビューは銅版画
・「バンド ノワール」の画家とされる。
・中心画題はブルターニュ地方の風景

一見、印象派の絵かなと思いましたが、こんな感じの絵も描いています👇

『コンブリの入り江』1935

ちょっと印象派とは違いますよね。空は明るいですが、木や岸辺が逆光なのか何だか暗い感じがします。絵筆のタッチもきっちりしていますよね。

ドーシェは「バンド・ノワール(黒色組)」に属していたそうです。グループの中心はシャルル・コッテです。コッテの作品は大原美術館にも何点か所蔵(過去記事、大原美術館:『荒地の老馬』コッテ大原美術館:『聖ジャンの祭火』コッテ大原美術館:『セゴヴィアの夕景』コッテ)されていますね。コッテの作品は画面全体がかなり暗めです。ぜひ実物を見て頂きたいものです。

ドーシェは油彩画、銅版画の他に、水彩画やパステル画、デッサンも手掛けています。○○派というよりは、色々折衷された作風という感じで良いのではないでしょうか。「バンド・ノワール」の画家とされてはいますが、コッテと比べたら画面は随分明るいですし。

大原美術館所蔵のドーシェの『風景』に戻ります。この作品はどこを描いたものなのでしょう? 水辺であることは分かります。川なのか湖なのか。海辺かもしれませんね。波が立っていない感じなので穏やかな河口付近かもしれません。かなり小さいですが人が棒状のものを持って何か作業しているのか分かるでしょうか?何かいるんでしょうかねぇ。色々想像が膨らみます。

作品名がシンプルに『風景』、そして制作年も不明なので、場所を突き止めるのはなかなか難しそうです。ドーシェ家は、1890年からブルターニュ地方南西部のベノデで夏期休暇を過ごしていたようです。これは大きなヒントになりそうです。べノデは河口付近のコミューンです。そして前出の作品『コンブリの入り江』のコンブリは、オデ川を挟んで向こう岸のコミューンになります。どちらもフランスのブルターニュ地方オデ川河口付近の都市ということですね。

ドーシェの中心画題は、海岸沿い風景だったようなので、筆者的には『風景』の場所はべノデコンブリではないかと思っています。関係あるか分かりませんが、後景に描かれている教会によく似たコンブリの礼拝堂を見つけました👇

出典:Wikipedia コンブリのサンヴェネク礼拝堂

よく似た形の教会はたくさんあると思うので、これがそれだとはもちろん言えません。あくまで、コンブリに似たような形の教会あったョという筆者からのお知らせです。

次に筆者が気になったのは、ヒョロヒョロと縦に伸びる不思議な木です。しかも何本も生えていて並木状態です。葉の付き方が独特で、木の上の方に、ある程度まとまって葉が茂り、中間辺りの幹には、枝を横に伸ばさずくっ付くように葉が生えているように見えます。この木、どこかで見たような…。

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MOA美術館
クロード・モネ
『ジヴェルニーのポプラ並木』1891
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プ-シンキ美術館
クロード・モネ
『ジヴェルニーの積みわら』1884-1889

モネのジヴェルニーの風景画です。ヒョロヒョロと背が高く、葉の付き方もよく似ていると思います。作品名にポプラ並木とありますね。積みわらの後景の並木も多分ポプラ並木なんでしょうね。

ということで、ドーシェの『風景』の中の並木は、ポプラではないかと思っています。ただ、水辺(海辺)付近にポプラというイメージが筆者にはあまりなかったので、ちょっと疑問でした。

ポプラといえば、紅葉がきれいですよね。公園の樹木、街路樹などで見かけることが多いと思います。ポプラについて調べてみると、ヨーロッパ、西アジア、北米を原産とするヤナギの仲間であることが分かりました。なんとヤナギ!意外でした。そして、幹から芽吹き根元からのヒコバエが多いとありました。幹から芽吹く、『風景』の中の木の幹の貼り付いたような葉っぱはそういうことだったのかと妙に納得してしまいました。筆者的にはポプラ決定です👍 ところで、ヒコバエとは何でしょう?樹木の切り株や根元から生えてくる若芽のことのようです👇

出典:Wikipedia 
カナダポプラの切り株の周囲から生え出るヒコバエ

どうやらポプラは幹から芽吹くことが得意なようですね。そして、ヤナギの仲間となると、水辺や海辺にも強いということも理解できます。塩に耐性があり、街路樹・防風林におすすめの樹木として、ヤシやクロマツ、ソテツ等と共に、ポプラの名前もありました。素晴らしい。『風景』の中の並木の条件にポプラは色々当てはまりました(^-^)

何かと深まったところで、実物をまたいつか見てみたいものです。