大原美術館:『小径』ラールマンス

家族でしょうか。犬もいますね。

大原美術館
ウジェーヌ・ラールマンス(1864-1949)
『小径』1918

【鑑賞の小ネタ】
・ベルギーの画家
・11歳の頃より聴覚に障害あり
・表現主義のスタイルを取り入れる
・45歳の頃より視力に障害が出始める

若い夫婦と子どもが2人に犬一匹。幸せな家族の絵、と言いたいところですが、なんだか暗い…。3人とも目線が下だからでしょうか?犬は正面を向いてますね。長女らしき女の子が花を持っていることで、ちょっとホッとするような気もします。

筆者の第一印象は、まぁるいな、でした。
こんな感じです👇

全体的に暗い印象の中、家族がまぁるくかたまっているように見えたのです。貧しいながらも、家族みんなで慎ましく生活しているのではないかと。

似たような家族の絵をいくつか見つけました👇

ドント・ダーネンス・テ・ドゥルレ美術館
『屑拾い』1914

母親と娘二人、服の色などから、モデルは同じ家族ではないかと筆者は思っています。父親がいないなぁと思って見ていたら、後ろの方にいました。大きな袋を背負った男性らしき人物が後を追うように付いて来ています。作品名が『屑拾い』となっているので、やはり、貧しい家族の絵なのかもしれませんね。

ラールマンスは、当時流行していた象徴主義(人間の精神性や夢想などを、神話などを用いて象徴的に描く)に憧れた時代もあったようですが、貧しい人々などの社会的なテーマを描くようになり、表現主義(感情を作品の中に反映させて表現する傾向)のスタイルを取り入れたとありました。

11歳から聴覚に障害を持ち、45歳頃から視覚にも障害が出始めたラールマンス。45歳というと、1909年頃になります。大原美術館の『小径』の制作年は1918年なので、既に視覚障害があったということになります。聴覚も視覚も不自由となると、厳しい晩年を送ったことが予想されます。

ラールマンス自身と目の前の貧しい家族の内面が、何かしらシンクロしたのかもしれませんね。ちなみに、ラールマンス自身は、ベルギー(ブリュッセル)の裕福な家に生まれています。

こちらの家族も、『小径』の家族かもしれませんね👇

『夏』1920

『小径』の犬と同じような犬がいます。子どもも二人の女の子。父親がいない代わりに、大人の女性がいます。雰囲気的に、どの人物もリラックスしているので、筆者的には血縁関係のある親族とふんでます。母親の姉か妹といったところでしょうか。この絵には少し明るさを感じます。

『夏』の構図とよく似た絵を見つけました👇

アントワープ王立美術館
『オアシス』1912以前

背景や人物の立ち位置等、よく似ていますねぇ。横たわる女性に至っては、ほぼ同じです。絵の制作年が、1912年以前となっていますので、今回紹介している絵の中では、最も古い絵です。こうしてみると、モデルとなる家族や人々を、作者のイメージで再構築して絵にするというあのパターンが見えてきます。中央の二人の女の子、お姉ちゃんが妹を抱っこしているように見えますが、この感じ、『小径』の母親が子どもを抱っこしているそれによく似ています。顔を寄せ合っている様子が二人の信頼関係をとてもよく表していると思います。

   

ラールマンスの 視力は徐々に悪化し、1924年には絵を描くことを止めたそうです。 1927年、国王から男爵の地位を与えられましたが、社会的な活動から離れて行き、忘れられた存在になっていったということです。結婚し、家族を持ったという記述は発見できなかったので、多分、独身で生涯を終えたと思います。家族を描いたと思われる作品が多い(『酔っ払い』1898酔っ払った父親を家族で連れ帰る絵、『侵入』1903家族で他国に逃げる絵etc.)ラールマンスですが、どの家族もなんだか貧しい。楽しい場面のはずが、なんだか寂しい。家族が揃って幸せなはずなのに、そうでもない…。

ただ、大原美術館の『小径』は、家族の希望が見える気がします。家族全体が仲良くまるくかたまっているし、女の子が花を持っているし、可愛い犬までいる。しかも正面を向いて。ラールマンスの他の絵と比較して感じたことですが、『小径』は、ラールマンス的には温かい家族の絵だったのかもしれませんね。