小村雪岱の『青柳』とシダネルの『夕暮の小卓』

筆者がよく見ている美術系テレビ番組は、NHK「日曜美術館」「日曜美術館アートシーン」、BS日テレ「ぶらぶら美術・博物館」、テレビ東京「新美の巨人たち」です。

多分、どの番組でも一度は取り上げられている小村雪岱(こむらせったい)という画家についてご存じでしょうか? 筆者は最近までよく知りませんでした。

番組で小村雪岱がテーマの時、次の絵がメインでよく紹介されています。

小村雪岱(1887-1940)
『青柳』1941年頃
木版多色刷

小村雪岱 は大正から昭和初期の日本画家で、版画家、挿絵画家、 装幀家(そうていか:ブックデザイナー)でもあります。多才ですよね。画家というかデザイナーとして有名で、主に商業美術の世界で活躍しました。グラフィックデザイナーの元祖とも言われるそうですョ。

『青柳』という作品、どうでしょう? 洗練された構図(デザイン)、とても引き付けられます。 少し上から中を覗いたようなアングル(「吹抜屋台」と呼ばれます)で、広間の青畳の上にポツンと三味線と二つの鼓が置いてあります。手前に青柳(あおやぎ)がスーッと繊細に描かれていて、全体的にシーンとした静けさを感じます。

そして何よりも、人が描かれていないのに人の気配がそこにあるこの感じがなんとも素晴らしい。 これからお稽古が始まるのかまたは終わったのか。ただ置いてあるだけなのか。 何れにしても、人が絡んだ気配をそこに感じるのです。この無人でありながら、そこに人が居たような、または、これから人が訪れるようなこの状態を「留守模様」と呼ぶそうです。

『青柳』を観ていたら、大原美術館のシダネル『夕暮の小卓』を思い出しました。

大原美術館
アンリ・ル・シダネル(1862-1939)
『夕暮の小卓』1921

過去記事(大原美術館:『夕暮の小卓』シダネル)でも紹介しましたが、つい先ほどまでそこに誰かいたようなこの感じ、留守模様ですよね。丸いテーブルの上に、カップやビン等の小物が置かれることにより、人の気配を感じることが出来ます。

ところで、どちらの作品も派手な色を使っていませんよね。ただ、差し色がとても効いていると思います。『青柳』は鼓と右下の小窓の赤色、『夕暮の小卓』は家の灯りとテーブル上の果物の黄色ですね。『青柳』は全体的に緑っぽく、緑に赤です。そして『夕暮の小卓』は全体的に青っぽく、青に黄です。反対色になっているので、差し色としてとても効果的ですね。

「留守模様」と「差し色」、筆者的にはツボです。

【豆知識】
小村雪岱『青柳』の版画は、雪岱死後、その弟子の山本武夫監修の元、300部限定で摺られました。